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2010年10月19日 (火)

映画「わが青春に悔なし」

「わが青春に悔なし」 黒澤明監督
10月2日(土)東京芸術センター・シネマブルースタジオで鑑賞

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1946年(昭和21)、戦後間もない時期に制作された作品。予備知識は草原の花畑に戯れる男女のスチール写真だけ。タイトルもそうだから爽やかな青春映画だと想像していたのですが、いやいやまったく違いました。

物語は実際に戦前に起きた京大・滝川事件とゾルゲ事件をモチーフにしていて、それらの事件に関係したことで生き方が別れていく男女が描かれます。途中でこれは京大事件だということはわかったんですが、ゾルゲ事件は後で解説を読んで気付きました。つまり藤田進は尾崎秀実がモデルだったんですね。

戦後すぐの映画だというのに全編を通してスタイリッシュでオシャレな映画表現が多くて、まあ今となってはちょっと臭い表現もあったけれど、それは60年前の映画なんだからご愛嬌。

今作の原節子は小津安二郎の映画でお嬢さんや清楚なご婦人を演じている彼女とは180度異なり、「女の生きざま見さらせや〜」という真っ直ぐで力強い人物を演じています。というか前半ではパブリックイメージ通りのお嬢さん、中盤で愛を貫くことを決意した独立した女性。ここまではいわゆるイメージ通りの原節子なんですが、後半が凄い。

後半、原節子の夫がスパイ容疑で検挙され、取調べ中に死んでしまいます。彼女は夫の遺骨とともに農家である夫の実家に身を寄せるのです。村ではその一家はスパイだと貶められて村八分状態です。大学教授の娘で今まで農作業などしたことがないお嬢様が村の人々に馬鹿にされながら汗だくになって農作業をする。「顧みて悔いのない生活を」 という夫の言葉を何度も反芻する原節子の凄味で心が痛くなりました。

ヘコタレそうになる原節子を山の木が笑うのですが、ただ山の木が揺れているのを撮影しているだけなのに、村全体が原節子をスパイの嫁と笑っているように思える。その描き方のエネルギーが凄い。力づくで、イーストウッド並に容赦がありません。

戦争が終わり態度が180度変貌する村人たちの描き方に釈然としないものもあるのですが、戦後民主主義の萌芽の時代の作品ですから仕方ないのかもしれません。同様に戦時下の言論の弾圧や、軍国主義に対する批判も今作の重要なポイントとなっています。でも、僕はそういった時代背景のポイントよりも、原節子=力強い自我を持った女性の物語サイドにとても惹かれました。

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コメント

もう見ました ありがとう

投稿: 笑える猫 | 2010年10月20日 (水) 10時48分

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